松井 隆さん

今回1983年卒の委員長だった松井隆さんにお話を伺いました。

松井 隆 さん
ネットランス株式会社 代表取締役
明治大学 1983年卒
明治大学英語部 72代 執行委員長(ディベートセクション)

 この度のご依頼をいただき、僭越ながら現況を寄稿させていただきます。
現在私は、通訳・翻訳を主体としたビジネスサービスの会社、ネットランス株式会社を経営しております。起業してから6年になります。ここまでに至る間、実に紆余曲折がありました。大学卒業後、勤めた企業は10社、起業した会社は3社目となりました。また、リストラ4回という不名誉な体験もしました。昨年からコロナ禍の影響もかなり受けました。これから良いことも悪いことも想定外に起こることでしょう。

 現在の会社を起業したのは大きな目標や野心があったわけではありません。社会に出て主に外資系企業で働いてきたことから、何度も転職をしました。外資系企業において転職は、キャリアアップが多いですが、地位が上がって報酬も上がるとリストラのリスクも増大します。特に社長や経営幹部になると2〜3年で大きな波が押し寄せます。社長は2期連続で結果を出せなければ解任、その下の幹部は社長が変わるたびに一掃されます。
 外資系で長く勤めるためには、社長になって結果を出し続けるか、役職的に上に行かないことで、大波の影響がない深いところにいるかどちらかになります。競争の厳しい世界ではありますが、高い報酬、専属の秘書、カンパニーカー、家賃補助、比較的豪華な海外出張など、役職に応じた待遇面のメリットもあります。自分にとって一番ありがたかったのが、50代半ばを過ぎていたのに北米の大学院に行かせてもらったことでした。
 英語力も当然求められます。英語部でそれなりに英語ができると思い込んでいた私にとって、レベルの違いを思い知りました。英語で資料作成、プレゼン、電話会議、英語での会食と何はともあれ英語が優先されました。外国人上司に認められるためには、仕事よりも英語ができるかどうかで判断されます。これは否定できない現実でした。

 前にリストラ経験が4回あると言いましたが、これは突然やってきます。その度になんとか他社に良いポジションを見つけて移りましたが、2013年の4度目の時には「もう会社をあてにはできない。自分の身は自分で守るしかない」と決断し、起業へと方針を変えました。
それまで起業することなど考えたこともありませんでしたから、何をすればいいのか全くアイデアがありませんでした。そのような状況下で、会社を辞めて独立した元同僚に相談したところ一緒に事業を始めることになったのです。この頃、フリーランスを使って請け負うクラウドソーシングが勃興し始めた頃で、それを立ち上げることにしました。これにはITシステムの投資が必要で資本金を注ぎ込みましたが、同僚の知り合いの開発会社が半年経っても一向に完成できないため、資金が底をつき事業が頓挫してしまったのです。その間、営業訪問し、システムが完成したら使ってくださいと頼んでいました。そこで、「今翻訳とかできますか」と言われ、「はい、できます」と答えてから翻訳者を探したのです。これが、現在の事業の原型になったのです。結局、ITシステムは完成せず、同僚の裏切りにもあい、当初の事業は露と消え私はその企業から退きました。
 この頃が自分の人生で一番辛かったと思います。金銭的な痛手もありましたが、一時は人間不信に陥りました。その後、気持ちを改めて再度起業した際、他人に頼らず全て自分で行うことで学ぶことがとても多かったと思います。当初の共同経営を経ずして今の会社経営に至ることは出来なかったし、その前のリストラなくしては起業に至らなかったこと、それらは全て無駄ではなく必然だったことを痛感しました。

 現在の会社は翻訳、通訳、クリエイティブ制作、ビジネスコンサルティングと少しずつ業容を広げてきました。翻訳も英語、韓国語、中国語と広げています。契約フリーランサーは400人ほどになりました。私は営業経験がある方ではないので、今でも営業は得意ではありません。しかし、営業は会社の生命線であることを認識しています。そして最も効果の高い営業は、既存の顧客を大切にし、サービスのクオリティを高く保つことだと思っています。それは、顧客が社内外に紹介をしてくれるからです。現在コロナ禍で営業活動が極めて困難な中、紹介は少しずつですが確実に新規顧客を産んでくれています。

 話は変わりますが、コロナ禍で時間ができたため、趣味として色鉛筆画を始めました。昨年の9月から描き初めて25作品にまでなりました。僭越ながらここに掲載させていただきます。このような状況下、趣味は心の癒しとして私には効果が大きかったのです。それまで趣味というものを持たなかった自分にとって、老後の楽しみにもなりそうです。

 最後に英語部の現役生の皆さんにアドバイスということで少し触れたいと思います。大学の4年間は2度と得られない貴重な4年間です。英語部の活動、勉学、恋愛、遊びに悔いのないようエネルギーを注いでください。そして4年間を共にした仲間を大切に。彼らは一生涯続く貴重な財産です。社会に出て多忙になると思いますが、S N Sがあるのでそれを活かすことができます。私の代はL I N Eで交流しています。それから、せっかく出会った英語です。卒業してからも英語の学習を継続してほしいと思います。

 そして就活を迎える現役生へ。私が学生だった頃と比べ、現在は情報やノウハウも比べ物にならないくらい充実しているようですが、競争は熾烈と聞いています。是非、O Bを活用していただきたいと思います。O Bとして現役生の皆さんともっとお話ができる機会が持てればと思います。それから英語部で経験したことは様々な場面で役に立ちますので、自信を持って就活に向かってください。

おすすめ